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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1518号 判決 1988年3月31日

控訴人

株式会社日本ゴルフ会

右代表者代表取締役

篠宮要治

右訴訟代理人弁護士

宅島康二

被控訴人

株式会社幸福相互銀行

右代表者代表取締役

頴川勉二

右訴訟代理人弁護士

北村巖

北村春江

松原正大

古田泠子

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人が玉井一朗に対する神戸地方法務局所属公証人東民夫作成昭和五七年一四五九号債務承認並びに履行契約公正証書の執行力ある正本に基づき昭和六一年二月三日原判決別紙目録記載のゴルフ会員権に対してした強制執行は許さない。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  本件につき、当裁判所が昭和六二年七月二四日にした強制執行停止決定を認可する。

五  前項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文一ないし三項同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、次に補正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(原判決の補正)

一  原判決二枚目裏六行目の「三一日を「三〇日」と改める。

二  同四枚目表一行目の「昭和五一年一月二一日」を削除し、同二行目の「仮差押をし」を「、本件会員権の仮差押申請をして昭和六一年一月二一日付仮差押決定を得、右決定は翌二二日第三債務者訴外会社に送達され」を加え、同六行目の「申請をなし」を「申請をして、同年二月三日付差押命令を得」と改め、同七行目の「送達されたもので、」を「送達されたものである。」と改め、その次に「その後右債権に対し競売による配当、弁済等があつたが、なお、残元金四三四万八七〇三円及びこれに対する昭和六二年七月一六日以降18.25パーセントの割合による遅延損害金債権が存在する。」を加える。

(控訴人の当審における主張)

一  玉井一朗(以下「玉井」という。)は、昭和六二年四月二二日被控訴人主張の仮差押(以下「本件仮差押」という。)につき解放金三二五万円を大阪法務局に供託し、右仮差押は同月二四日その執行が取消されたものであるところ、被控訴人は同年五月一五日右解放金取戻請求権につき差押、転付命令を得て本件仮差押の被保全債権が消滅した。したがつて、仮差押の効力も消滅した。

二  被控訴人は昭和六二年六月二二日本件仮差押を取下げた。したがつて、仮差押の効力は消滅した。

三  本件差押の債務名義である公正証書上の被控訴人の玉井に対する債権は、担保権の実行及び他の保証人からの弁済等によつて消滅している。

(被控訴人の答弁及び主張)

一 玉井が控訴人主張のとおり本件仮差押につき解放金を供託し、被控訴人がその取戻請求権につき差押、転付命令を得て本件仮差押の被保全債権が消滅したこと及び昭和六二年六月二二日本件仮差押を取下げたことは認めるが、その余の主張は争う。本件差押の債務名義である公正証書上の債権がなお存在することは、前記主張のとおりである。

二 本件ゴルフ会員権は、譲渡禁止の特約がある債権であり、この譲渡については未だ大宝塚ゴルフクラブの承諾がなく、かつ、被控訴人は右会員権につき仮差押及び本件差押をしているから、控訴人は被控訴人に対して本件会員権譲渡の効力を対抗し得ない。

(証拠関係)<省略>

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、控訴人は昭和六〇年一二月二六日玉井から本件会員権を買受け、同人から入会保証金預り証、名義書替申請に必要な書類の引渡しを受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、玉井が大宝塚ゴルフ株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し昭和六一年一月三〇日付内容証明郵便をもつて右会員権譲渡の通知をし、同書面が翌三一日訴外会社に到達したことは当事者間に争いがない。

三被控訴人は、本件会員権はその譲渡をするについて、クラブ理事会の承認を得たうえで訴外会社に登録手数料を納入して名義書替えをすることにより効力を生ずる旨の定めがあるのに、控訴人は右手続きを経ていないから譲渡の効力が生じていない旨主張するので判断する。

1 前記一の当事者間に争いがない事実及び成立に争いのない乙第一号証によれば、大宝塚ゴルフクラブ(以下「本件クラブ」という。)は、訴外会社が経営管理するゴルフ場を利用し、ゴルフを通じて会員相互の親睦をはかる社交機関であつて、その会則には、クラブの会員には特別会員、正会員、週日会員があり(四条)、クラブに入会しようとする者は、入会申込書等の書類を提出してクラブの理事会の承認を得、会社に対し入会保証金を預託し、登録手数料を支払つたときに会員となる(九条)、会員が退会したときは、会社は入会保証金を会員に返還し(一七条)、会員は理事会の承認を得てその権利を譲渡することができ、登録手数料を会社に納入して名義を書替えることによりその効力を生じるものとする(一四条)等の定めがあることが認められる。

2 右認定事実によれば、本件会員権は、いわゆる預託金会員組織のゴルフ会員権にあたるものというべきである。そして、クラブ会員の有する権利すなわち会員権の譲渡については、本件クラブ理事会の承認を要するとされているけれども、他に特段の主張立証のない本件においては、前記乙第一号証の会則の趣旨に照らし、その意図するところは、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくない者の入会を阻止することにより、主としてクラブの品位を保つことにあつて、譲渡人と譲受人間における本件会員権の任意譲渡を一般的に禁止したものではないと解されるから、譲渡禁止特約のある債権と異なり、クラブ理事会の承認のない会員権の譲渡は、クラブに対する関係で相対的にその効力が生じないとすれば足り、譲渡の当事者間においては、クラブ理事会の承認により会員資格(地位、以下同じ)を取得するという条件付権利の譲渡として有効であり、かつ、その対抗要件は後述のとおり、民法所定の指名債権譲渡の場合と同様の方法によるものと解するのが相当である(取引の当事者間においては譲渡が有効であることにつき最高裁昭和四九年(オ)第二四六号同五〇年七月二五日第三小法廷判決・民集二九巻六号一一四七頁参照)。したがつて、被控訴人の右主張は採用できない。

3  次に被控訴人は、玉井の本件会員権譲渡の通知に先立ち、被控訴人は本件会員権の仮差押をし、次いで本件差押をしたから、控訴人の本件会員権の譲受けは被控訴人に対抗できない旨主張し、控訴人は、玉井が本件仮差押の解放金として被保全債権三二五万円を供託し、仮差押が取消されたところ、被控訴人は、右解放金取戻請求権の差押、転付命令を得たから、本件仮差押の効力は消滅した旨主張するので判断するに、債権者が、債務者の有する財産権(債権等)に対し、債権の一部を被保全権利として仮差押をし、ついで債権全額をもつて本差押(本執行)をした場合においても、その後右仮差押にかかる被保全債権全額が弁済されて消滅したときには、債務者から右仮差押にかかる財産権の譲渡を受け、かつ、右仮差押後本差押までの間に、その対抗要件を備えた第三者は、右仮差押をしついで本差押をした債権者に対して、右譲受けにかかる財産権が自己に属することを主張して、これに対する強制執行の排除を求めることができると解すべきである(最高裁昭和三四年(オ)第一〇八七号同四〇年二月四日第一小法廷判決・民集第一九巻一号二三頁参照)。これを本件についてみるに、被控訴人が昭和六一年一月二一日付仮差押決定(同月二二日訴外会社に送達)をもつて本件会員権の仮差押をしたこと及び同年二月三日付債権差押命令(同月五日訴外会社に送達)をもつて本件差押(本執行)をしたこと、玉井が本件仮差押の被保全債権三二五万円を解放金として供託し、昭和六二年四月二四日仮差押執行取消決定がなされたこと、被控訴人が同年五月一五日右解放金取戻請求権の差押、転付命令を得たのでこれにより本件仮差押の被保全債権が消滅したことは当事者間に争いがない。

してみれば、控訴人は、前記のごとく玉井から本件会員権を譲受け、かつ、被控訴人が本件会員権に対する仮差押をした後その本差押をするまでの間に、その対抗要件を備えたところ、その後被控訴人は、解放金取戻請求権の差押、転付命令を得たことにより本件仮差押の被保全債権が消滅したから、控訴人は、本件会員権(但し、前記条件付権利)の取得をもつて、被控訴人に対抗し得るものと解するのが相当である。

四もつとも、被控訴人は、控訴人は本件会員権譲受けについて本件クラブ理事会の承認を受けていないから、被控訴人の本件差押に対抗できない旨主張するが、預託金会員組織ゴルフクラブの会員権の譲渡につき理事会の承認を得ないでも、会員資格の取得が理事会の承諾を条件とする条件付権利として有効に譲渡でき、それがゴルフクラブに主張できないに過ぎないことは前記説示のとおりである。そして、その理は第三者が強制執行による差押をした場合でも同様であつて、差押の効力は右条件付権利の範囲に止どまるものであり、債権執行における譲渡命令あるいは売却命令によつて会員権を取得した者が、クラブ理事会の承諾手続きを経ずに確定的に会員資格を取得するものとは解されない。したがつて、会員権譲渡の第三者に対する対抗要件は、第三者が差押債権者であつても指名債権譲渡の対抗要件である確定日付のある証書による通知または債務者の承諾によると解すべきである。そして、本件差押が本件会員権譲渡の確定日付のある証書による通知に遅れるものであることは前記事実関係から明らかであるから、被控訴人は、本件差押をもつて控訴人に対抗できないものというべきである。被控訴人の右主張は採用できない。

五してみると、本件会員権は、玉井との関係では控訴人に属するから、これに対する被控訴人の強制執行は許されないというべきであり、その排除を求める控訴人の請求は、その余の主張を判断するまでもなく正当として認容すべきである。

六よつて、右と結論を異にする原判決は失当であるからこれを取消し、控訴人の請求を認容することとし、民訴法九六条、八九条、民事執行法三八条、三七条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官宮地英雄 裁判官横山秀憲)

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